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朝鮮族研究会

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朝鮮族研究会

関西部会記録(2010年5月30日)

2012.04.11 08:55

管理者 閲覧数:8484

第一報告

報告者:金花芬会員(大阪府立大学大学院)
テーマ:コリア系ニューカマーの教育戦略:韓国人と朝鮮族の学校選択と家庭内使用言語を中心に
討論者:丁章氏(詩人)

[
報告要旨]

 報告者は、共同研究「コリア系ニューカマーの教育戦略:韓国人と朝鮮族の学校選択と家庭内使用言語を中心」から「朝鮮族ニューカマーの教育戦略」の部分を取り出して報告した。発表では、大阪に在住している朝鮮族ニューカマー7人を対象として行なった調査を取り上げた。結果を要約すると、家庭内使用言語における特徴は、朝鮮語を母語として積極的に継承させようとし、朝鮮語だけではなく、日本語も積極的に教えようとし、中国語の継承は被験者の言語能力によって異なる点である。また、学校選択においては、戦略的に日本の学校を利用しようとし、上昇のために西洋の学校も利用しようとし、モノリンガルにならないために母国や故国の学校も利用しようとしている点が顕著である。今後は、少なすぎるサンプルの問題を如何に克服していくのか、といったことが課題となる。


[
討論内容]

 丁章です。よろしくお願いします。

 私は在日三世の詩人で、学者ではありませんので、学問的な話はできませんが、在日としての経験から想うところを話してゆきたいとおもいます。

 このたびの金花芬さんの発表の題名が「教育戦略」と言うことなのですが、ふつう、教育について考えるとき、日本では「戦略」という言葉はあまり使わないので、はじめ聞いたときはちょっと驚きました。でも、よくよく考えてみれば、国や故郷を離れて、異国や他郷で暮らす者にとっては、出自の民族性をいかに守るかということ、つまり教育問題というのは、たしかに「戦い」と呼んでもおかしくないほどに切実な問題であって、だから、そうか、「戦略」でもおかしくないか、と、そんなふうに考え直しもしました。

 朝鮮族のみなさん、とくに、自治州や自治区出身の方々は、基本的にはウリマルが母語であり、生活語であるわけですが、中国国内ではたえず漢語との二重言語の環境におかれていて、さらに日本に渡ってきて在日している朝鮮族の場合は、日本語が加わった三重言語の状況になりますから、言語問題というのはひじょうに複雑で難しい問題であるかとおもいます。

 それで今回の金花芬さんの調査を見てみると、在日朝鮮族の家庭では、親御さんが子どもの教育のために、たいへん苦心しながら、いろいろ工夫されているというのがよくわかります。

 たとえば、子どもたちにより多くの言語環境を与えようと、日々の会話や、絵本、DVDなどを使って、朝鮮語や中国語をいつも身近にあるように努めたり、朝鮮族の特質である多言語性を子どもの将来のためにいかに活かそうかと考えたりしています。

 私も二人の子どもの父親でして、今、上の子が公立の小学校6年生で、下の子が日本の私立の幼稚園に、二人とも朝鮮名で通っています。私の妻は日本人ですが、今回の金花芬さんのインタビューで親御さんたちが答えているさまざまな教育戦略と同じように、私も妻と二人でさまざまな選択肢を考えましたし、今もたえず、子どもたちの教育をどうしたらいいのかと悩みつづけています。

 ただ、いろいろ理想的な選択肢は考えられても、じっさいのところは、日々の生活の中で、現実的な条件によって選択するしかないというのが、親としての率直なところです。それは経済的な条件であったり、近くに民族学校が無いなどといった物理的な条件であったりします。

 つまり、個々の家庭の事情や、親の考え、そして子どもさんの個性に合わせた、無数のさまざまな教育戦略があって、これが正しい戦略だというのは、どんな教育にも絶対にありえないことです。

 それでも、先ほどの金花芬さんの発表を聞いていますと、やっぱり、朝鮮族の親御さんたちが子どもに望んでいることとして、共通している事柄があるとおもいました。それは、親御さんたちが意識するしないにかかわらず、親御さんたちは子どもたちに、自分の母語である朝鮮語を身に付けてほしいと望んでいるということです。

 これは単に、子どもたちに朝鮮語が役に立つから身に付けてほしいと望んでいるということではなくて、子どもたちに朝鮮族の証しとして、朝鮮語を身に付けてほしい、つまり、朝鮮族としてのアイデンティティーや朝鮮族としての親子の絆、ルーツを失って欲しくないと、心のどこかで望んでいるのだと、私はそうおもいます。

 金花芬さんの考察の中で、インタビューに答えている親御さんたちの全員が家庭内で朝鮮語を母語として継承させようとしているというのがありましたが、この親御さんたちは、皆、教育熱心で、つまり教育戦略を持っている人ばかりだとおもいますが、教育戦略を持っているということは、それは、教育によって守りたいものがしっかりとあるからであって、そしてその守りたいものというのが、朝鮮族の場合、ウリマルだということなのかも知れません。この場合のウリマルというのは、ソウルマルのような韓国語としてのウリマルではなくて、朝鮮族の生活語としてのウリマル、ウリ民族の証しとしてのウリマルです。

 このようにコリア系ニューカマー・新在日の場合、朝鮮族であれ、韓国人であれ、親たちは生まれ育ちの中で身につけたウリマルをしっかりと持っています。つまりネイティブなウリマルが家庭内にあって、それが先ほどの金花芬さんの考察にもありましたとおり、新在日の親御さんたちの教育戦略にとって、大きな武器となっているのだとおもいます。
 
 家庭内にネイティブなウリマルがあるということは、私のように、生活語としてのウリマルを身に付けていない多くのオールドカマー・旧在日にとっては、羨ましいかぎりのことです。私のような在日三世にとって、ましてや日本人と結婚した者にとっては、家庭内での日常生活の中でウリマルを自然に引き継がせるという教育戦略は、じつに勝ち目のない実現困難な戦略だと言わざるを得ません。

 むろん、民族学校や留学によって生活語としてのウリマルを身に付けることは可能ですし、一つの理想のかたちでもあります。ただ、だからといって在日同胞の多くがこの戦略をとれるかというと、むしろ旧在日・オールドカマーの場合は、とれない家庭のほうが圧倒的に多いというのが現実だとおもいます。

 民族の証しが言語であるというのは、いつの時代でも真理であるにちがいありませんので、ネイティブなウリマルを守りつづけられるに越したことはありません。

 しかしながら、はたして、ネイティブなウリマルを守っていてさえすれば、それで民族のアイデンティティーは守ってゆけるのでしょうか? 逆にもしも、ネイティブなウリマルを守れなくなったときは、民族の証しを失った私たちは、ウリサラムであることも失うことになるのでしょうか? 私はそうはおもいませんし、そうであっては決してならないとおもいます。ネイティブなウリマルを失っても、自分はウリサラムであるという意志を失わないかぎり、私たち在日サラムはウリサラムとして生きてゆけると、私はそうおもいます。

 つまり教育戦略として最も大切なことは、ネイティブなウリマルよりも、ウリサラムを生きるという意志を、いかに子どもたちに教え育むかということにあるかとおもいます。そのような教育ならば、ウリマルによるものでなくても、日本語ででも中国語ででも、いっこうにかまわないはずです。いくらネイティブなウリマルを持っていても、ウリサラムとして生きる意志がなければ、その人はウリサラムだとは言えないはずです。

 私たち在日サラムのこのような想いは、ネイティブなウリマルを持つ人々には、なかなかわかってもらえないようですが、ネイティブなウリマルを失った者にとっては、じつに切実な想いです。

 ということで、ウリサラムを生きる意志を子どもたちに教え育むことが何よりも大切なことだということなのですが、ならば、そのためにどのような教育戦略が必要かといいますと、それは、やはり、親や身近な大人たちがウリサラムとして生きている姿を子どもたちに見せるということによってでしか教えられないとおもいます。在日サラムは在日サラムとしてのアイデンティティーを、朝鮮族ならば、朝鮮族としてのアイデンティティーを、しっかりと自覚を持って生きる親の姿に、子どもたちは感化されるのだとおもいます。はたしてそれ以外にいったい何があるでしょうか? 

 子どもたちにウリ民族の言葉や歴史や文化を教えることは絶対に必要なことです。しかしそれらは民族教育にとってはすべて二義的なことで、一義的に子どもに伝えなければならないことというのは、ウリサラムであることを生きぬく意志であるはずです。そしてそれは、ウリサラムとして人生を追求して生きている親の姿をもってでしか、子どもたちには伝えられない。親から子へと自然に引き継がれるものとはそういうものではないでしょうか?
 いかがでしょう? みなさんはどうおもわれるでしょうか?

 以上が、今日の金花芬さんの発表を聞いての私の感想です。
 まとまりのない話でしたが、これで終わります。
 どうもありがとうございました。



第二報告

報告者:鄭英会員(立命館大学)
テーマ:「朝鮮族移住労働への視点」
討論者:フロアーディスカッション

〔報告要旨〕 

 中国朝鮮族の移住労働に関する研究は、中国や韓国で一定の蓄積が行われてきた。しかし、最近の研究とりわけ
박광성중국조선족의 초국적 이동과 사회변화』(韓国学術情報 2008)が「トランスナショナルな移動」と描き出しているように、朝鮮族の移住労働者送出をめぐる状況は21世紀に入ってさらに大きな転換的局面を迎えている。地域的な広がりを含め、質的量的に変容するこうした局面では、中国東北-韓国という限定された地域間での人的移動や「プル-プッシュ」など古典的な分析枠組みのみでは、変化する現状や方向性を捕捉し得ない。

 本報告では朝鮮族移住労働の現況、延辺側の対応 を通じて 朝鮮族移住労働研究に関するいくつかの課題を提示した。

 では、中国朝鮮族の海外移住が、地域的にも形態的にも益々多様化していること。一方、最多数の朝鮮族労働者を受け容れている韓国では、「訪問就業制」実施以降、労働基本権を保障された熟練朝鮮族労働者の登場で、雇用主との関係に一定の変化がみられること。その一方で、外国人労働者の受け入れ枠拡大是非をめぐっては韓国政府、労組、市民運動など立場に応じて依然激しい議論のあること。さらに、朝鮮族の国家アイデンティティにも変化が起きていることなどを指摘した。

 については、中国側で「帰郷創業」「全民創業」をスローガンに、帰国した出国労働者の技術と資本力を前提にした起業推奨を軸にした地域経済成長戦略が取られている現状を指摘した。これはまた「新農村建設運動」との関連も見て取れよう。

 については、朝鮮族移住労働の特徴を数点指摘したうえで、これほどの短期間に「なし崩し」ともいうべき移住労働現象が進行した要因について、より多角的な分析が必要とされること。朝鮮族移住労働にも、移住の形態に応じて2重構造(格差)が生じている現状があり、「トランスナショナル」という捉え方にも一定の制限があること。中国における朝鮮族コミュニティ(東北の旧コミュニティ、北京や青島の新コミュニティを含め)の維持発展に、より多くの関心が払われるべきこと。移民第2世代(2世)の登場が見込まれる状況下で、朝鮮族の海外トランスナショナルコミュニティの形成・維持に変容は必至であり、在日朝鮮人社会の歴史・現状との比較の必要性を指摘した。

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