2012.04.11 09:12
関西部会(2011年7月30日(土)14:00時~17:00時 於:大阪経済法科大学ISD布施)
◆第一報告◆
報告者:林 松国氏(立命館大学経営学部)
テーマ:「卸売市場牽引型の地域経済発展モデル―中国浙江省義烏市の発展事例―」
討論者:高 正子氏(神戸大学非常勤)
【報告要旨】
経済の高度成長が続くなか、中国では卸売市場の牽引によって地域経済の発展現象が数多く見られた。そういう意味では、卸売市場や商人活動といった商業の発展が地域経済、とりわけ製造業に、具体的にどのような寄与を与えるかについてきちんと検証することが重要である。
本報告では、商業の発展に誘発される形で中国国内有数な雑貨産地に発展した浙江省義烏市の事例を取り上げて分析を行った。
まず、雑貨卸売市場の発展経緯を振り返って、その形成の背景には義烏地域特有の「鶏毛換糖」の行商活動があったことを明らかにした。 卸売市場と製造業の関係については、事例研究を行い雑貨産地における商人の生産者化現象および企業の競争力について考察した。義烏市の雑貨産業は卸売市場の発展を受けて1990年代半ば以降急速な拡大を遂げてきたが、広東省や温州市といった国内の雑貨産地に比べて後発の地位にあった。また、個々の企業の発展現状を見ても、義烏企業は必ずしも高い技術力や組織力を持っているわけではない。本報告では、商人の生産者化によって成長した義烏企業について詳細に分析を行った結果、義烏企業の成長には地元の卸売市場と商人活動の経験といった商業的な発展要因が大きく寄与したこと、および義烏企業の競争力はその多様な生産ネットワークと深く関係していることが明らかになった。
本報告で示された商業の発展と産業集積との促進的関係は中国内陸部地域がいかに産業を振興するかという課題の解決にも参考になるものと考える。地域経済の発展は結局のところ、その地域の「内生的発展力」に左右される。「内生的発展力」とは本報告で明らかにされたような、長期的に地域の経済発展を担う商人や生産者、およびそれらの担い手を大量に創出させる仕組みまたは循環である。沿海地域へのキャッチアップを実現するためには、内陸部はそれぞれの地域における「内生的発展力」を重視し蓄積していかなければならないと思われる。
【討論要旨】
今回の報告は去る3月17日から24日まで義鷗での調査に就いてである。今回の調査で注目したのは、韓国人企業家と朝鮮族の関係である。それは韓国内とは異なるものであった。つまり、韓国における韓国人と朝鮮族の関係は、外国労働者(単純な外国人ではなく同族と意識はあるが)と雇用者という緊張関係にあるが、中国での関係は韓国での雇用関係とは著しい違いを見せていた。
浙江省の義鷗は杭州から高速バスで内陸部へ約2時間入った地域である。義鷗を指して「鶏毛換飴」という言い伝えがあるほど貧しい地域で、雑貨をもって行商する義鷗商人は有名であった。現在の義鷗はアクセサリやスカーフなどの小物雑貨の生産地として有名で、この地域で生産される商品は韓国へ輸出(60%)され、韓国から第三国である南米・北米・日本・ヨーロッパ・東南アジアなどへ韓国人バイヤーがいる地域に輸出される。韓国のアクセサリデザインは優秀で世界市場の40%のシェアーをもっている。このような義鷗には現在6千余りの韓国人が居住する。その多くは家族を韓国に残してきた男性である。
では、なぜ韓国人が義鷗に来たのか。それは、1997年のIMF危機以降の韓国内での雇用構造に起因する。1997年以降韓国では労働者が早期退職する傾向にあり、40代-50代で退職した人たちが、元手のあまり要らない流通業で起業する人たちがいる。この条件に義鷗は合致しているのだ。例えば、義鷗では事務所を一室借り、事務員と通訳兼務する朝鮮族を雇い、パソコンが一台あれば起業できるのである。商売の成功を左右するのは優秀な朝鮮族を雇うことにかかっていると韓国人はいう。韓国の企業がチンタオ(青島)から撤収するようになった1997年頃から、義鷗に韓国人が進出するようになると、それに伴い朝鮮族が移動している。現在、政府発表で2万人、籍を移さず居住する朝鮮族を合わせると約3万人の朝鮮族がいるのではないかと推測される。義鷗で居住する朝鮮族は集住地を形成し、そこに韓国人や朝鮮族を対象とした食堂街を形成している。
◆第二報告◆
報告者:玄 善允氏(大阪経済法科大学アジア研究所)
テーマ:科研申請共同研究「中国・朝鮮族女性と子供、そして家族の変貌に関する総合的研究」の生成と現状と問題点
討論者: 鄭 雅英氏(立命館大学)
今回の発表は私(玄善允)が友人知己を募って企画し、学術振興会科学研究費補助金に3回にわたって申請し、不採択になってきた共同研究企画の生成過程を包み隠さず明らかにし、その問題点を指摘していただくとともに、新たなメンバーを募るなど、企画の再検討、体制の改組などに資したいと思ってのものであった。時間的制約もあって、内容の詳細な説明・吟味には至らなかったが、そこで頂いたコメントなどを参考にして共同研究チームを再構成して、再度の挑戦に努めるつもりである。
以下に当日配布したレジュメを提示し、そこに記されている当日配布の大量の資料などをご所望の方がいらっしゃれば、メールでお送りしますので、遠慮なくご連絡頂きたく存じます。
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科研申請共同研究「中国・朝鮮族女性と子供、そして家族の変貌に関する総合的研究」の生成と現状と問題点
玄善允(ヒョンソニュン)(大阪経済法科大学アジア研究所)
自己紹介:在日二世、フランス語教師、在日二世論、『在日の言葉』『大学はバイキンの住処か?』『マイノリティレポート』『在日との対話』
A.配布資料の説明
1.「延辺への旅」、『東アジア研究』49号巻頭言、大阪経済法科大学アジア研究所(2008)
2.「中国延辺地方感傷旅行」『玄善允の落穂ひろい3号』、(2011)(2007年執筆)
3.科研申請書の「研究目的」、「研究計画」(2010)
4.審査結果(2011)
5.その他、持参した個人的な書き物の案内:『しましま模様第6号』、『玄善允の落穂ひろい1号、2号』、『龍王宮報告書』など
B.本日の話の展開
1.共同研究企画の生成過程、動機→資料1、資料2を参照
①「在日」的立場。
②個人的交渉。
③業務上の関係。
④何故に女性なのか。僕の生涯のテーマの一環である。「大阪と済州」、「済州の無識字女性の学び」、「大阪における在日女性の祈りの場」、「在日一世と二世の葛藤と和解」など。
2.企画の内容→資料3の科研申請書参照
①危機を可能性とする観点 ②国境を跨ぐ「村」のネットワーク③女性と子供を核として考える。④歴史的相対化の視点。
3.審査結果に見る、企画の問題点など。→資料4を参照
①個人的動機と研究との齟齬。
②調査可能範囲に関する具体性の欠如(大風呂敷)。
③体制の問題:在日、日本人、朝鮮族といったような出自の多様性と、歴史、社会学、文学、地域研究、朝鮮族研究と研究領域の多様性は一応確保しているが、ジェンダー研究者の欠如、代表者の経歴、資質の問題などがある。
④申請書の論理的一貫性の欠如など。
当日のコメント。
①女性と子供に焦点化する必然性が脆弱に思われる。
②経験的に言って、この種の申請にあたって、「子供」を主題化すれば採択の可能性が少ないように思われる。
③申請分野にふさわしい研究方法の提示がなされていないのでないか。たとえば、質的調査をするのか、それとも量的調査をするのかといった点が不明確に思われる。
④代表者にふさわしい申請分野を選ぶ必要がある。
コメントに対する応答(玄善允)
①について:あまりにも当然のことですが、共同研究をするためには、それなりのテーマの絞り込みが不可欠で、とりわけ、競争資金への応募の際には、「売り」を積極的に押し出すことを余儀なくされるわけで、私たちはそれを「女性と子供」として、そこから中国朝鮮族の変貌の全体像を明らかにしようというわけです。しかし、それが申請書の中で論理的整合性を備えているのかという問題指摘なのでしょうから、それについては改めて考えてみたいと思います。
②については上記と同じ。
③申請分野をどうするかは最後まで悩んで末のことです。このあたりは④のコメントにも関連しますし、私が既に指摘していることですが、やはり代表者の資質経歴に大きな問題点があります。それに加えて、メンバーの中で方法論に関して、合意形成がうまくできていないというのが実情です。新たな体制でコメントを生かすべく努める所存です。
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(以上)
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